代表インタビュー

 

“田舎のマンガ少年”から“マンガ販促のプロ”へ

目の前のチャンスを掴みつづける、北出吉和の今とこれから

 

【インタビュー/コマツ マヨ

 

坊主頭にベレー帽。思わず「漫画家さんですか?」と聞きたくなる。

広告やパンフレット、名刺、ホームページなどの販促物を、マンガを使ってわかりやすく楽しく伝える“マンガ販促ツール専門デザイナー”、キタデザイン・北出吉和。

幼少期、漫画家への強い憧れを抱き、マンガを描くことに明け暮れた少年は、時を経て“マンガ販促のプロ”になった。

 

マンガばっかり描いていた。褒められたことはあまりなかった

 

北出の生い立ちについては、ここであれこれ語るよりもキタデザインのホームページを見たほうが早い。これでもかというほど詳しく書かれた“濃いプロフィール”を見れば、彼のことをはるかによく知ることができる。

 

「“田舎のオタク少年”でしたね。マンガばっかり描いていたから、勉強はできないし運動も得意じゃない。たくさんの人に可愛がられてはきたと思うけど、褒められたことはあまりなかった。絵だって、美術の時間に褒められたことは一度もないんですよ。でも、国語だけは得意でした」

 

クライアントのイメージに沿ったイラストに、商品やサービスの魅力が伝わるようなストーリーを添える。マンガ販促物は、その性質上、イラストと同じくらいにストーリーづくりも重要となる。幼少期にマンガを描くことで培ったストーリーづくりのスキルは、今、“マンガ販促のプロ”の仕事へと確実につながっている。

 

 

徹底したヒアリングは、販促物制作を超えたキタデザインの独自サービス

キタデザインは、クライアントへの徹底的なヒアリングが大きな特徴だ。仕事を依頼すると、クライアントはまず「ヒアリングシート」を受け取る。A4用紙7枚、約40の項目を埋めると、その内容を元に今度は電話やビデオチャットなどでさらに細かい打ち合せを行う。

クライアントの多くは、このヒアリングシートに苦戦する。

 

「ヒアリングシートは、お客様が自分の仕事と向き合ってもらう時間にしてほしいんです。中身が埋まらないということは、自社の特徴や強みがぼやっとしているということだと思う。ここが明確になっていないと、こちらがいくら案を出しても『こうじゃない、ああじゃない』となって、余計に時間もかかるし、満足のいくものができない」

 

親しみやすく朗らかな印象のある北出だが、仕事の話をするときの表情は、普段のイメージと違ってとても厳しい。

 

 

「だから、ヒアリングシートに空欄があったりぼやっとした答えが返ってきたときは、『ここ、少し矛盾していますよね?なぜですか』と細かく質問をします。自分(自社)がどんな位置に立っていて、どんなことをしたいのかをしっかり考えてもらってから依頼していただく方がスムーズだと思っているから」

 

ヒアリングシートによって「自社の強みがはっきりとわかった」、「社員の認識が一致した」といった声が、クライアントから多く寄せられるという。

 

「これ(ヒアリングシート)も含めて、キタデザインのサービスなんです。自社の商品がどのようなものなのか、社員みんなで考える機会になってほしいし、みんなで考えてひとつの答えが出せたら、会社にとってとても素敵なことだと思うから」

 

 

順風満帆だったエディトリアルの仕事を、全て断った

キタデザインとしての歩みは10年だが、編集プロダクションに勤め、雑誌や書籍中心のエディトリアルデザインに携わった期間を含めれば、北出のデザイナーとしての経験はまもなく20年になる。

 

「会社員時代、仕事の案件が来たら、人が3案出すところを僕は6案だすようなやり方をしていました。制作会社との仕事は、お客様との間に営業さんや代理店さんなど複数の人が入るので、直接お客様の言葉を聞くことはなかった。『お客様が本当に欲しかったものってなんだったのかな』と思う時もありましたが、たくさん案を出すと制作会社さんがとても喜んでくれましたし、デザインの仕事ってこういうものなんだな、と当時は思っていました。仕事は早いほうなので、こういう仕事が自分には向いているとも思っていましたね」

 

 

9年ほど会社員を経験し、独立。しばらくは、それまでと同様にエディトリアルデザイン中心の仕事を行なっていた。仕事は順調だった。

 

「それなりに売り上げはあったんです、初年度から。でも、(業界全体で)雑誌が売れないから、仕事の価格もだんだんと下がっていっちゃって、『この先この仕事あるのかぁ……』なんて思いながら仕事をしていた。あるとき、今までやっていた仕事の依頼が、今までにないほど低予算で来て。『あぁ、この仕事はもうだめかもしれない』と思いました。それを機に、エディトリアルの仕事を全てやめて、“販促ツール専門デザイナー”と書いた名刺を作りました」

 

 

ある人の言葉をきっかけに、元マンガ少年は再びマンガを描き始める

「なんとかなるかな、と。これでダメだったら仕事を続けても仕方ないかなって思ったけど、うまくいかないとは思っていませんでしたね」

 

「販促ツール専門デザイナー」としての活動をスタートさせ、ヒアリングを重視した制作スタイルに転向した。思い切った決断だが、自身は不思議と楽観的だった。

こうした決断に至る背景には、ある人の影響があった。

 

「独立するときに、デザイナー兼コンサルタントをしている“中野さん”という方にシェアオフィスに誘っていただいたんです。そこから3年ほど、隣同士で仕事をしながら、仕事の相談に乗っていただいたり、いろんなことを教わりました。いわば僕の師匠のような方。彼はヒアリングをとても重視した仕事スタイルだったんです。彼に仕事を依頼したお客さんのなかには、ヒアリングで自社の悩みや困りごとを話しているうちに泣き出したりする方もいて。そんなお客様の思いを商品に詰め込んで、出来上がった商品を見たお客様がとても満足されて。喜ばれて、お金もちゃんといただける。自分らしく、自分の商品で仕事をするってなんて素敵なんだ!って思ったんです」

 

 

今でこそ、マンガ販促のプロとして活躍する北出だが、会社員時代はほぼマンガに触れていなかったという。北出が再びマンガを描くようになったのも、中野さんの言葉がきっかけだ。

 

「独立するとき、『ブログを始めてみたら?』とアドバイスされたんです。『デザインなんて、ある程度経験を経たらできるし、新しい感性は若い子に持っていかれちゃう。デザイナーとして磨くことがあるとすれば“書く技術”と“聞く技術”だ』と言われて」

 

「根が素直なんで(笑)」という北出。師匠からのアドバイスを素直に取り入れ、打ち合わせではヒアリングを重視するようになり、文章を書く練習としてブログをはじめた。

 

「イラストが好きで、漫画家を目指していた、と中野さんに話したことがあるんです。そしたら、『絵が得意やったら絵を入れたらええやん!』と言われて。それまで続けていたブログにイラストつけてイラストブログをスタートしました」

 

 

ブログを見たという大阪の会社から『自社のカレンダーに理念を描いてほしい』と依頼が来た。独立して2年、最初のイラストの仕事だった。

 

「そのうち『マンガも描けるんちゃう?やったらええやん!』といわれて。また素直に従って、イラストブログをマンガブログにして、ホームページには“マンガで販促物を作ります”という風に載せてみたんです。すると、それを見てくださった方から『このタッチのマンガでチラシを作ってくれないか?』と依頼がきて。これがまんがチラシの第1号になりました」

 

まんがチラシのサンプルをホームページに載せると、「うちも作ってほしい」という依頼がどんどん舞い込んだ。アドバイスを素直に受け入れ、クライアントの要望を形にしながら、少しずつ“マンガ販促のプロ”の実績を重ねた。

 

 

僕の考えた商品は、ほとんどポシャってる(笑)

まんがチラシを中心に、さまざまな商品を展開するキタデザイン。しかし、北出自ら考案したものはあまり売れないらしい。

 

「『なんでもできます』だとお客様は頼みにくいだろうから、新しいアイデアが浮かんだら、どういったものができるのか実際にサンプルを作って、価格を決めてホームページに載せて……。でも、僕が考案したものはいっこうに売れない(笑)」

 

まんがチラシや名刺など、キタデザインの主力商品となっているものの多くは、クライアントからの依頼があって制作した。

 

「僕が自分で作ったと思っていたものって、今にして思うと結局人に頼まれたものを作っていただけなんです。頼まれたものを一生懸命作っていたら、喜んでもらえて、たくさんの人に選ばれる商品になった。みなさんのおかげなんですよね。前はちょっと、“自分が考えた”って思ってたところもありましたけど……(笑)」

 

 

ターゲットは、“僕のファン”

 

仕事依頼や問い合わせは、ホームページ経由でくることが多い。なかには、「ファンなんです!」というクライアントも。

 

「ブログを見ていた方から『北出さんのファンなんです!この絵の雰囲気でホームページを作ってください』という依頼があったんです。おお、僕の“ファン”なんだぁ!って嬉しくなって(笑)ブログを読んでいてくださったので、僕の考えや仕事のやり方なんかも理解してくださっていて、出来上がった商品もすごく喜んでくださって。こんなに喜んでもらえて、こちらの満足度もすごく高いし、ファンと仕事をするってなんて楽しいんだ!って思って。『これからもファンと仕事をしていきたいから、ファンを増やしていこう』と決めたんです。僕のターゲットは“僕のファン”かもしれませんね」

 

これからのことを聞くと、北出は「今は何も思いつかない」と答えた。

目の前に降ってきたチャンスをつかんだら上手くいくことが多かったから、これからもチャンスは逃さないようにしたいという。

 

「いつかできたらいいなって思ってることはたくさんあります。いままでも、『こんなことしたいなぁ』なんてぼんやり考えてたらある日突然チャンスがきた。だから、自分からは何かしないけれど、波がきたらいつでものれるように準備だけはちゃんとしているんです」

 

あとは、波がやってくるのを待つだけだ。

 

 

北出 吉和(きたで よしかず)

キタデザイン代表

1977年、石川県生まれ。坊主頭がトレードマークの販促ツール専門デザイナー。

勉強そっちのけで漫画家を目指した幼少期を経て、広告・雑誌デザイナーとして制作会社に勤務したのち、独立。広告制作のスキルを活かした「まんがチラシ」を制作。「マンガ販促のプロ」として、北海道から沖縄まで日本全国に250社以上の顧客をもつ。

 

【インタビュー/コマツ マヨ